今回はシステム導入を成功に導く「業務設計」のススメと題し、全5回に分けてシステム導入を成功に導くフライク流の方法と、導入後システムを継続させる秘訣について解説します。
【業務設計プロジェクトの全体像】
前回までのストーリーはこちら
第4回目は業務フローの整理と課題の深掘り・検証です。
「業務フローの整理と課題の深掘り・検証」は、業務設計プロジェクトの中でも最も多くの時間をかけて実施する重要な工程です。
この工程の重要性をわかりやすくお伝えするために、今回の記事では「もし、営業部配属の新人に十分な説明をせず仕事を任せたらどうなるか?」というストーリーを用意しました。
「新人に仕事を任せる」というテーマは、実はシステム開発と共通するものです。
業種特化型のパートナーでない限り、自社の業務フローや利用しているシステムに詳しいパートナーは少ないのが現実。
つまり、新人に仕事を教えるのと同じように、システム開発を提案・構築するパートナーに対しても、明確な業務フローを共有することが成功の鍵となります。
このストーリーを通じて、業務フロー整理の重要性をイメージしていただければと思います。
目次
とあるハウスメーカーA社に就職したばかりの高橋さん。
4月に入社し、3カ月の研修期間を経て、念願の営業部に配属されました。
営業活動初日。営業部の先輩である伊藤さんと次のようなやりとりを行いました。
高橋:「一日でも早く成果を上げたいです!営業で成果を出す方法を教えてください!」
伊藤:「いい心構えやね!俺が新卒一年目のときはな、架電リストを片手に、買ってくれそうなお客さんに片っ端から電話してたもんや!」
高橋:「わかりました!私も早速やってみます!」
高橋さんは伊藤さんから過去の来場者リストを見せてもらい、さっそく営業電話をかけ始めました。
<架電1件目>
高橋:「〇〇ハウスの高橋と申します。昨年、弊社の展示場にご来場いただきましてありがとうございます。少しお時間が経ってしまいましたが、ご状況いかがでしょうか?」
顧客A:「(前も電話あってお断りしたんだけどな)いや、もう検討していないので結構です。」
高橋:「承知いたしました。また何かございましたら、私、高橋までご連絡ください!」
<その後も架電するがつながらず、やっとつながった顧客>
高橋:「〇〇ハウスの高橋と申します。昨年は弊社の展示場にご来場いただきましてありがとうございました。少しお時間が経ってしまいましたが、ご状況いかがでしょうか?」
顧客B:「〇〇ハウスさん?今、営業の△△さんと話をしているけど…。」
高橋:「申し訳ございません!」
隣でこのやりとりを聞いていた伊藤さんは、すぐに問題に気付きました。
高橋さんは、本来開かなければいけないエクセルを見ていなかったのです。
この時のA社営業部は、顧客情報を3つのエクセルファイルを元に管理しており、情報が分散している状況でした。
<A社が顧客情報を管理しているエクセル>
①資料請求者管理用エクセル
②来場者アンケート管理用エクセル
③商談・提案中顧客一覧エクセル
このうち、高橋さんは「②来場者アンケート管理用エクセル」だけを見て架電していました。
「なぜすべてのエクセルファイルを確認しなかったのか」と思われるかもしれませんが、先輩である伊藤さんがきちんと「エクセルファイルは3つある」ことを伝えていれば、あるいはそもそもエクセルファイルの情報が1つにまとまっていれば、これらのミスは防げたでしょう。
もし、高橋さんがこのまま突っ走っていたら、「売ること自体が目的」になってしまっていたかもしれません。
また、もし伊藤さんがこの状況に気づかず、放置していたらどうでしょう?
結果として高橋さんのやる気が空回りし、新人が辞めてしまうだけでなく、大切なお客様まで離れていってしまう可能性もあります。
伊藤さんは、この状況が改善されない限り、営業活動全体に大きな影響が出ることを痛感しました。
ここまで「営業部独自の顧客管理表の説明を受けていない新人」のお話を進めてきましたが、これらの例えはすべて「現状業務の整理をせずにシステムを導入した企業」と共通します。
〇新人の場合
先輩に指摘されて初めて、自分が見ているエクセル以外にも顧客情報を管理しているエクセルが存在することにあとで気がつく。
〇システム導入の場合
システム導入後で仕様が固まったあとに、「やはりこれも機能追加してください」と後出しで要望が出てくる。
〇新人の場合
顧客からのクレームが発生したあとに、自社の管理体制の甘さや連携不足が発覚。
〇システム導入の場合
ITツール契約後に、想定していた機能がないことがあとで判明。
〇新人の場合
事前説明が不足している場合、何を優先すべきかわからず、目の前にある架電リストから営業活動を進めてしまう。
(重要でない顧客へのアプローチに時間を費やしてしまうということが考えられる)
〇システム導入の場合
システムを入れたい企業が自社の要望をしっかり伝えていない場合がある。
または、ツール提供企業側が顧客の要望の緊急度や本質的な課題を深掘りせず、ツールの機能ありきの説明や価格交渉に注力してしまうことも。
〇新人の場合
エクセルファイルの内容をきちんと確認せずに架電したため、顧客情報を正確に把握できず、重複連絡や対応ミスが発生。
チーム全体の活動や他部署との情報連携が見えておらず、自分のタスクだけに集中してしまい、効率の悪い対応につながってしまう。
〇システム導入の場合
部署ごとに異なるエクセル管理が分散しているにもかかわらず、特定部署の効率化にだけ注力してしまうことも。結果として部分最適なシステムになり、他部署で情報参照が難しくなり、余分な業務が増えてしまう。
〇新人の場合
社内の情報共有不足が、結果的にクレームの火種となってしまう。
〇システム導入の場合
システム導入時に、システムに強いメンバーや現場推進者だけがシステム会社とのやりとりを進めてしまうと、必要な機能や運用ルールが曖昧なまま、現場で使われない機能が増える可能性も。
新人である高橋さんの失敗を通して、伊藤さんは営業部の大きな課題に気づきました。
それは、情報が一元管理されていないことと、業務の進め方を新人に説明する難しさです。
そこで、伊藤さんは自身のこれまでの案件の進め方や他部門との情報共有方法について、深掘りと検証を始めました。
<営業プロセスの洗い出し>
伊藤さんのこれまでの経験を活かし、ひとまず自分が把握している業務の流れは記載することはできました。しかし、まだ情報が足りません。
もしかするとマーケティング・広報部が独自にエクセルで顧客管理をしているかもしれないですし、営業部による飛び込み営業や名刺交換など、属人化的に管理されている情報があるかもしれません。
ただ、これ以上自分ひとりで洗い出しをしようと思うと、自分の業務時間が削られてしまいます。
そこで、伊藤さんはIT導入コンサルティングをしている株式会社フライクへ相談し、「業務フロー設計書」を描いてもらうことにしました。
先輩の伊藤さんは「利用しているエクセルシートの用途と課題」を洗い出しました。
これをもとにフライクに依頼したところ、業務の流れを示した「業務フロー図」が返ってきました。
伊藤さんとフライクの洗い出し結果により、高橋さんは「まず社内でどのようなITツールが使われているのか」、そして「それらの情報がどの部署で、いつ、どこに記載されているのか」を把握できるようになりました。
では、これをシステム導入にどう活かせるのでしょうか。
次の最終章では、整理された業務設計をもとに、どのような変革がもたらされるのかを見ていきたいと思います。
システムを使いこなすためには、まず自社の業務やルールをしっかりとSaaSベンダーやITシステム開発企業に伝える必要があります。そのための手段が「業務設計書」です。
自社特有のルールや運用方法、作法を業務設計書で明確に伝えることで、初めてベンダーと「自社にとって本当に使いやすいシステム」を実現するためのディスカッションができます。これがシステム導入を成功に導く第一歩なのです。
次の「5.業務フローに基づくシステム設計範囲とITツールの仮確定」では、これらの課題を抱えているハウスメーカーAがシステム導入するときのイメージを持つための業務設計プロセスについて考えていきたいと思います。
このブログを参考にし、皆さんのシステム導入成功につながりますように。
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